★お客様を鷲づかみにした礼状、それは”名文”ではなかった!!

思いを込めた一文
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思いを伝える文章」について考える第2弾です。
きょうは「礼状」について。

 

■型破りの礼状の添削を頼まれた

はじめて面談して直後に礼状を出す、というのを習慣にしている人がいます。
いつもはがきを持っていて、間髪入れず帰りの車中でしたためる・・・・。
素晴らしい習慣だなぁ、と思う。実行している人はさすがに少ないですが。
少ないからこそ価値があるんでしょう。
メールでもいいですが、あえて直筆で、という人には頭が下がります。

 

そんな習慣を身につけようと真剣なUさんからある日、Facebookメッセージが届きました。
「新規にわが社を訪問くださった人に礼状を書いたので添削してほしい」ということでした。
Uさんは社会保険労務士をめざしている”二代目”さんです。
以下が文面です。便せんに3枚ですから礼状としてはやや長めでしょうか。

 

読んでみると、なるほど手紙文としては少々型破り、文章もうまいとは言えません。
しかし「思いを伝える文章」としては十分に合格点をあげられると思いました。
まず原文をじっくりとお読みください。(下線、黒丸数字と  は私が挿入)
「合格点」をあげたい理由がわかってもらえるとうれしいです。

 

■文章が長いため主語が少し混乱

◇Uさんの礼状(原文)

謹啓
 晩秋の候、貴社ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 本日は、ご多用中にもかかわらず、当社にお越しいただき誠にありがとうございました。また、代表(父)との日程調整がなかなかできず、早期での希望がかなわず、大変ご迷惑をお掛けしました。
 

 さて、この度の来社にあたり、有力な情報提供が出来たのでしょうか?職業柄日ごろから、お客様の求めている情報以上の情報を提示するように心がけているのですが、まだまだ勉強不足で読み取る能力に欠けております。会長様、社長様の真意に十分にお答えできずに、貴重な時間を割いていただき、誠に申し訳ありませんでした。

 現在、建設業におきましては、まだまだ社会保険加入の徹底に力を入れているのが現状で、いまだ福利厚生費の支給に対して本腰を入れておりません。➊今まで社会保険加入済みの会社は、見積もりまたは契約書の中で、経費の中に福利厚生費をあらかた計上していましたので、今更別途福利厚生費計上することに違和感を持っている元請業者が多い様です。❷元々は経費の中で福利厚生費を計上していましたが、社会保険未加入の下請業者の洗い出し、また加入の徹底化を図る目的のため、別途計上することとなりました。しかしながら、実際に福利厚生費を計上しなければならず、その計算方法は、労務費から算出し計上するか、請負金から労務比率を乗じ労務費を算出する必要があります。労務比率とは、労災の保険料を算出する際に、請負金額から各業種ごとに算出された割合で、建築事業(鉄骨鉄筋建築事業)においては、現在二十一%とされています。計算式等は別途添付いたします。

 ➍また、お話に上がった労災事故についてですが、先日お会いした時にも話させていただきましたが、申請については事実を報告しなければ、最終的にお客様にご迷惑をお掛けしてしまうので、事実を曲げて書類を作成することはございません。しかしながら、やはりさじ加減というものがあるのも事実です。私共は、お客様に出来るかぎり有利になるように書類を作成、または助言をさせていただいています。実例をあげることは出来ませんが、お力添えできると確信しております。

 ➎先日、社長様と聖蹴会のゴルフコンペで初めてお会いし、先輩後輩の関係で、お目にかけていただき、本日貴重なお時間をいただき、限られた時間でしたが、懇談させていただきました。今後も会社同士の付き合いでなくとも、聖光サッカー部の先輩、後輩の縁としてお付き合いさせていただければ幸いです。
寒さもますます厳しくなってまいりますので、くれぐれも健康に留意されご活躍されますようお祈り申し上げます。
まずは取り急ぎ御礼まで申し上げます。
                                                                謹白
   平成二十六年十一月七日
                                  社会保険労務士法人 〓〓〓〓〓〓〓

 

便せん

あなたは礼状を書いていますか? いろいろ文章をひねるより、時機を置かず思いを伝えた方がよいようです

 

いかがですか、「思い」があふれている文章でしょう?
ただし、こなれた文章ではありません。それに一部、礼状の形式が崩れています。
もたもたした感じがあるのは一文が長いためです。また長い人によくある欠点で、主語・述語がきちんと対応していない、という問題も出てきがちです。
この点を修正してリライトしてみました。

 

■読みにくい個所を2文に分けリライト

◇Uさんの礼状リライト

謹啓 晩秋の候、貴社ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 さて、本日はご多用中にもかかわらず、当社にお越しいただき誠にありがとうございます。
 この度のご来社にあたり、私は有力な情報を提供できましたでしょうか? 日ごろから、お客様の求めている情報以上の情報を提示するように心がけておりますが、まだまだ勉強不足でございます。会長様や社長様の真意に十分にお答えできずに貴重なお時間を使わせ、誠に申し訳ありませんでした。また、代表である父との日程調整がうまくいかず、早期に面談ができずご迷惑をおかけしました。

 

 本日のミーティングで説明しきれなかった部分を二、三あらためて補足させていただきます。
 建設業におきましては、まだまだ社会保険加入の徹底に力を入れているのが現状で、福利厚生費の支給にまで手が回っておりません。

 ➊社会保険加入済みの会社は、見積もりまたは契約書の中で、経費として福利厚生費をあらかた計上しています。それゆえ、今さら福利厚生費を別途計上することには違和感を持つ元請業者さんが多いようです。

 ❷福利厚生費が今回、別途計上に切り替わったのは、社会保険未加入の下請業者を洗い出し、加入を徹底させるためだと思われます。➌ しかし、実際に福利厚生費を計上しなければならないというのは大変です。計算方法は、①労務費から算出して計上するか、②請負金から労務比率を乗じ労務費を算出するか―です。労務比率とは、労災の保険料を算出する際に請負金額から各業種ごとに算出された割合で、建築事業(鉄骨鉄筋建築事業)においては、 現在21%とされています。計算式等は別途添付いたします。

 ➍また、お話の中に出てきた労災事故の申請についてですが、説明いたしましたように、事実を報告しなければなりません。事実を曲げて書類を作成しますと、最終的にはお客様にご迷惑が掛かってしまう可能性があるからです。もちろん、さじ加減ということもございます。私どもは、お客様に出来るかぎり有利になるよう書類を作成し、または助言をさせていただいています。守秘義務もあり、いま実例をあげることは出来ませんが、お力添えはできると確信しております。

 ➎先日、社長様と聖蹴会のゴルフコンペで初めてお会いし、先輩後輩の関係で目をかけてもらい、本日は貴重なお時間をいただきました。限られた時間でしたが、有意義な懇談となり、誠にありがとうございます。
 今後も会社同士のつきあいというより、聖光サッカー部の先輩、後輩の縁としておつきあい願えれば幸いです。
 寒さもますます厳しくなってまいりますので、くれぐれも健康にご留意され、ますます活躍されることをお祈り申し上げます。
                                                                謹白

   平成二十六年十一月七日
                                 社会保険労務士法人 〓〓〓〓〓〓〓
                                                                                                  

■礼状としては異色、でも思いはタップリ伝わる

実際のミーティングでは「福利厚生費」と「労災事故」がテーマになったうですね。Uさんはそれが気になるのか、「礼状」で再びその問題に触れています。だから”異色な礼状”になっているわけですが、「異色」は必ずしも悪ではありません。

 

Uさんは専門家ですから頭の中では答えがあり一気にそれを説明したい。ていねいに説明しようと思うので細々と状況説明から始めるので文が長くなります。会談で話し、質問も受けているようで盛り込むべき要素が多いから無理ありません。話しが頭に入っている社長さんたちには原文のままでも理解できたでしょう。しかし、外から読んでいる私たちには難解で、すらすら読めません。

 

まず、この長い一文(センテンス)をなんとかしましょう。
結論を先にいっておきます。文章が長いなら、2つに切るのが上策です。
特に長い文は➊~➎。長いが故に、前後の文で主語と述語がピッタリと対応していません。
例えば➊では、「社会保険加入済みの会社」と「元請業者」はほぼイコールです。一文に収めるなら「元請業者」は不要。どうしても入れるなら2文にするしかありません。

 

文❷は➊の流れを受けて書いているので「主語は元請業者だ」と思いがちです。
しかしそれだと意味が通じません。真の主語は「法律を今回変えた人たち」のはず。
法律なのか通達なのか、監督官庁も私には知識がないのでボカすことにしました。
この文をわかりにくくしている元凶は「元々は・・・・いましたが、」の部分。
不要だし、これあるがために文章が複雑になっているので全部削除しました。

要は、筆者は”法律の狙い”を説明したいだけですから。

 

➌も前と後では趣旨が違います。ですから、文を2つに分けて処理。
➍も実に長い。結論は「不正な申請書類は書けない」です。これも2つに分けて処理。
前段、事実を書くことの必要性。後段は「不正をするとあなたが損する」という趣旨。
➎も2つの事実が1文になっているので長くもたもたしているように見えます。
前段は、ゴルフで会って今日の会談ができたこと。後段、そのお礼です。

 

■「さて」の置き所に苦慮

リライトした文章と読み比べてください。文意がわかりやすくなったでしょう?
長文を何とかできたので、もうひとつの問題「手紙文形式」を考えてみます。

 

私がもっとも悩んだのは原文5行目にあった「さて」の使い方です。
「さて」は通常、話やテーマが変わる節目で使われます。
手紙の場合も同様で、時候の挨拶の直後に「さて」を入れたり、
時候のあいさつとお礼を一気に申し述べ、本題に入る前に「さて」を入れます。

話しの転換点には違いありませんが、もっと形式的に使われているようです。
ひとつの「様式」と言った方がいいのかもしれません。

 

本来なら「晩秋の候、・・・本日は・・・ありがとうございます。」までが一区切り。
改行して「さて、」とつなげるのが普通です。しかしUさんは
時候のあいさつ▽お礼の後に▽状況説明、さらに▽おわび―とつなげています。
謙虚さのあまり別の要素を2つも入れてしまい「さて」の出番がなくなりました。

 

そこでUさんは、話の転換点としてはわかりやすい5行目に挿入したわけです。
しかしこの段落の末尾は「申し訳ありません」なので、お詫び文になってしまいます。
結局「礼状」とするには型どおり2行目に「さて、」を持ってくるしかありません。
ところがこの段落にも「父に会えなかった」とお詫びに類する一文があるので、
「感謝」で終わることができません。やむなくこの一文を次段落に移動させました。

 

■手紙文の形式について

Uさんの手紙の趣旨は礼状です。しかしそれ以上にミーティングの席上、説明しきれなかった話を改めて説明したいという思いが強い。原文9行目以下の文章ですね。
本来なら礼状にこのような補足はいりません。しかしそれを抜いたらUさんの思いは中途半端で終わってします。だから異質ではあっても、この部分は削れません。
「さて」に類するようなうまい接続詞があればいいのですが。
「ところで、」は使えそうですが、相手への敬意を考えるとどうなんでしょう。
結局、接続詞を省き、1行空白行を入れてみました。

 

「礼状」を完結するなら、空白行で区切りをつけた一連の文章は
「追伸」の形で礼文と切り離してもいいのかもしれません。
ただしそうすると、Uさんの書き方ほど「思い」は伝えにくくなるでしょう。

 

このほか、手紙文ですから形式は覚えていた方がいいので、以下にまとめました。

 

「謹啓(謹んで申し上げます)」に対しては「謹言」または「謹白」で受けます。
謹言・謹白は(謹んで申し上げました)の意味です。
通常のビジネス文書なら使い慣れた「拝啓」「敬具」で十分です。
今回は”より丁重に”という思惑で「謹啓」を使いました。この場合、受けは
「粛啓」「頓首(頭を地につける)」「再拝(2度敬礼)」でもOK。
頭語は1字あけて続けますが、結語は通常、改行して末尾に置き1字あけます。

 

その他の気になる個所に下線を引きました。対応個所をリライト文で確かめてください。

 

最初の下線、プロですから自分で「能力がない」と言い切ってはいけません。
「今更別途」とその後ろも漢字が続くとよみにくいです。ひらがなで十分。
「二十一%」パーセントを表わすのは縦書きでも横書きでも算用数字を使います。
「話に上がった」は「話に出てきた」の方がわかりやすいでしょう。
「さじ加減」は直接的に事実を認めてしまったら具合が悪いですね、
さりとて「実例をあげない」と出し惜しみと思われかねない。
そこで「守秘義務」を持ち出し、言えない理由があることを明確にしました。

 

さいごに敬語、ていねい語のむずかしさについて一言。
「〇〇〇〇していただき」は便利なので、つい多用しがちです。
しかし「いただき」が4つも続くとさすがに”いただけ”ない!
だから「時間をいただき」だけを残し、他は別の言葉に書き換えました。

 

 

■礼状はスピード感こそ命

さて、細かく手直ししました。
しかしUさんが書いた手紙文は冒頭に指摘したように、決して悪文ではありません。
それどころか、感謝と熱意がストレートに伝わるよい文章だと思います。
事実、この手紙(原文)によりUさんは今後の仕事をいただけることになりました。

 

間髪を入れず来訪に対する感謝の意を表したかったUさんは、
私のリライトの文章を待たずに即日、手紙を投函したのです。
このスピード感が功を奏しました。
また熱っぽさがそのまま出ている文章も、もちろん一役買ったのです。

 

前回も書いたように、思いを伝える文章はうまいもへたもありません。
特に若い人の場合は、
洗練された文章よりゴツゴツぶつかる文章の方が好感を持たれるようです。

なぜだかわかりますか?
うまくなくても個性があるからです。

 

リライトした文章は合理的でスマートですが、誰が書いてもこんなものでしょう。
普通にただうまい文章は、どれも似たり寄ったりです。

ところが、下手な文章は個性的!! まねができません。

 

■「へた」な時期を大切にしてほしい

今の人は何でもかんでもマニュアルに頼りがち。
ノウハウを知りたがり「見本」や「手本」を求めます。
手っ取り早く文章がうまくなりたいなんて、もったいなさすぎます。
下手な文章はそれぞれに個性的です。
ちょっと文章術をかじるとその”個性”が消えてしまう。

 

文章がうまくなりたくて「文章」の本を読むのはいいでしょう。
一通りのルールや日本語の原理原則を知ることは悪いことではありません。
それを知ったら、何度も何度も文章を書いてください。必ず文章はよくなります。

手練れ(てだれ)るのです。でもそうなるともう「下手」には戻れません。
突き抜けてうまくなれば別でしょうが、普通にうまい文章はかえって平板です。
マニュアル的なうまい文章は、私には心まで薄っぺらに見えるのです。

 

書いたらすべてその文章は残しておいてください(コピーでいいです)。
うまくなったと思えた時、下手くそだった時分の文章を読み返しましょう。

懸命に思いのたけを書こうとしていた時の方が、”あなた”が出ているものです。
それがいっとう大事です。人を動かす文章はコツでは書くのではありません。

ジャーナリスト石川秀樹電本館あるじ)>

 

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